無痛分娩 Q&A
Q16. 硬膜外鎮痛を受けると赤ちゃんに影響はありませんか?
生まれた直後に現れる影響について:
1980年代の硬膜外無痛分娩では、現在一般的に使用されているよりも高い濃度の局所麻酔薬を使用していました。 このような方法の硬膜外鎮痛を受けたお母さんから産まれた赤ちゃんは、お産中に薬を投与されなかったお母さんの赤ちゃんよりも、 生後数日間、運動機能や刺激に対する方位反応が劣るとある研究で報告されました(※1)。
しかし、現在主流となっている硬膜外鎮痛は、低濃度の局所麻酔薬に少量の医療用麻薬を加えて持続的に投与する方法です。 この硬膜外鎮痛の方法を用いて、お母さんの血液と、お母さんから赤ちゃんに届く血液で麻酔薬の濃度を測定し、さらに生まれた赤ちゃんの状態を調べた研究があります(※2)。 お母さんに投与した麻酔薬は一部赤ちゃんに移行しましたが、アプガーという人が赤ちゃんの状態を評価するために提唱した値(心拍数、呼吸状態、筋緊張、皮膚の色、反射を点数化)や、 赤ちゃんの意識状態、いろいろな刺激に対する反応を調べてみても、いずれも正常でした。 また赤ちゃんの体をめぐったあとお母さんに戻る血液を検査しても、赤ちゃんの状態を調べても正常で、悪影響を認めませんでした。
ただし、お母さんの硬膜外鎮痛に用いる医療用麻薬の量が通常より多いときには、生後24時間の赤ちゃんの音や光に対する反応や運動機能が、少ない量の医療用麻薬を投与された場合に比べて低くなったという研究結果もあります。 しかしこの差は問題にならない程小さいと考えられています(※3)。
また、硬膜外に投与される医療用麻薬がとても多いと、産まれてきた赤ちゃんの呼吸が一時的に弱くなる危険性がありますが(※4)、そのような悪い影響のないよう、担当医は細心の注意を払っています。
点滴からの鎮痛薬の投与と硬膜外鎮痛を比較した研究(※5)では、お産中の赤ちゃんの状態に差はありませんでした。 しかし生まれたばかりのときは、硬膜外鎮痛を受けていたお母さんから産まれた赤ちゃんのほうが元気がよかったという結果がでています。
生まれた後に時間がたって現れる影響について:
お母さんが受けた硬膜外鎮痛が、生まれた赤ちゃんが成長していく過程に影響するかどうかを調べた研究が一つあります(※6)。この研究では、19歳までの学習障害(IQと読む、書く、算数のテスト結果から評価)の有無を指標としています。 硬膜外鎮痛や脊髄くも膜下鎮痛を受けたお母さんから生まれた子どもで、受けなかったお母さんから生まれた子どもと比べて、学習障害が多くなることはありませんでした。
- ※1. Sepkoski et al. Dev Med Child Neurol. 34:1072-1080,1992
- ※2. Bader et al. Anesth Analg. 81:829-832,1995
- ※3. Beilin et al. Anesthesiology. 103:1211-1217,2005
- ※4. Kumar et al. J Perinatol. 23:425-427,2003
- ※5. Halpern et al. JAMA. 280:2105-2110,1998
- ※6. Flick et.al. Anesth Analg. 112:1424-1431,2011