無痛分娩 Q&A
Q15. 硬膜外鎮痛はお産に影響するでしょうか?
硬膜外鎮痛がお産にどのような影響をあたえるかについては、分娩施設や担当の産科医の方針によって異なります。ここでは、これまでの研究で明らかになっていることをお伝えしますので、お産をする施設の産科医としっかりご相談されることをおすすめします。
分娩時間への影響:
いくつもの研究をまとめて分析した報告によると、硬膜外鎮痛を受けた妊婦さんと、点滴から鎮痛薬を使った妊婦さんを比べると、硬膜外鎮痛を受けた妊婦さんの分娩時間の方が、わずかに長くなることがわかっています。もう少し詳しくお伝えすると、陣痛が始まってから子宮の出口が完全に開くまで(分娩第Ⅰ期)は、わずかに長くなりました。子宮の出口が完全に開いてから赤ちゃんが産まれるまで(分娩第Ⅱ期)は、平均15分長くなりました(※1)。また、日本の産婦人科診療ガイドラインでは、硬膜外鎮痛を使った場合、この分娩第Ⅱ期の時間が1時間ほど長くなることは許容されるとしています(※2)。赤ちゃんの状態が良く、産道を降りてきていて、お母さんの痛みも和らいでいるのであれば、分娩第Ⅱ期がある程度長くなることは問題ないと考えられています(※2,※3)。
鉗子(かんし)分娩、吸引分娩への影響:
鉗子や吸引は、お産の最後の段階で赤ちゃんの頭が出るのを助けるために使われることがあります。例えば、分娩第Ⅱ期の時間がとても長くなった場合、お腹につけた赤ちゃんのモニターで苦しそうなサインが出てきた場合、赤ちゃんが産道を降りてくるときの進み方に問題がある場合などに使われます。これまでのいくつもの研究をまとめて分析した結果から、硬膜外鎮痛を受けた妊婦さんは、点滴から鎮痛薬を投与された妊婦さんよりも、鉗子や吸引を行うことが多くなることがわかっています(※1, ※3)。しかし、近年多くの施設で行われている濃度の低い局所麻酔薬を主に使う硬膜外鎮痛法では、点滴から鎮痛薬を投与された妊婦さんと比べて、鉗子や吸引を行う率は変わらないという分析結果も出てきています(※1)。なぜ硬膜外鎮痛をすると鉗子や吸引を行うことが多くなるのか、その理由ははっきりとわかっていません。一つの説として、お母さんのいきむ力が少し弱くなるからではないかという説があります(※4)。
帝王切開になる率への影響:
これまでのいくつもの研究をまとめて分析した結果、硬膜外鎮痛を受けた妊婦さんと、点滴から鎮痛薬を使った妊婦さんを比べると、帝王切開になる率は変わらないということがわかっています(※1, ※3)。
オキシトシン使用への影響:
オキシトシンは、体の中で作られるホルモンで、子宮を収縮させる働きがあります。お産を順調に進めるために、必要に応じてオキシトシンを点滴から投与することがあります。これまでの報告から、硬膜外鎮痛を受けた妊婦さんでは、点滴から鎮痛薬を使った妊婦さんよりも、オキシトシンを使用する頻度は少し高くなることがわかっています(※1)。また、計画無痛分娩では、オキシトシンを使用して分娩を進めていきます。オキシトシンの使用については、お産の状況を確認しながら適切に使われることが大切であり、日本の多くの分娩施設では産婦人科診療ガイドラインに準じて使用されています。このQ.15全体の内容に言えることですが、分娩の方針については、分娩施設や担当の産科医によって少しずつ異なりますので、疑問がある場合はあらかじめご相談しておくことをおすすめします。
- ※1. Anim-Somuah M, et al. Cochrane Database Systematic Reviews. CD000331,2018
- ※2. 日本産科婦人科学会 産婦人科診療ガイドライン産科編2023, CQ404,2023
- ※3. Halpern S.H., et al. Current Opinion in Anesthesiology. 23:317-20,2010
- ※4. Eltzschig HK, et al. New England Journal of Medicine. 348:319-32,2003